”純”とは《名・造》まじりけがない。ありのままで、いつわりや飾りがない。
やっぱり純粋で混じり気がない方が、良い気がする。
「純米=正義」
「純米でないもの=まがいもの」
そんな風に認識している方が多くて、もったいないなぁ、と感じています。
・「俺は純米酒しか飲まない」
・「アル添は邪道だ」
・「アル添を飲むと頭が痛くなる」
と思っている方には読んでおくことがおすすめです。
以前の僕はまさにそんな風に考えていました。
そもそも「純米酒」ってなに?
日本酒を大きなジャンルで分けると
「純米酒」と「アル添酒」にわけることができます。
これは日本酒を作るときに使う材料の違いです。
純米酒の材料:米・麹・水
お米をふんだんに使い、麹と水によって仕込む。文字通り「純粋に米だけ使った」日本酒です。
・・・といいつつ
「”麹”っていうのが入ってるじゃん。まぁ、水は勘弁してあげよう。」
実は「純米」といっても、日本酒は米だけで作れるわけではなくて、他の原材料も含まれています。原料表示に義務はありませんが、醸造用乳酸、酵母、なども投入されています。
つまり、逆説的になりますが、日本酒(=清酒)の中で、「醸造用アルコール」が入っていないものを「純米酒」と呼ぶことができます。
詳しい定義はあるのですが、一旦こんな風に覚えておいてください。
醸造用アルコールが無添加の日本酒=純米酒
一方で、醸造用アルコールが添加されている日本酒が巷では「アル添酒」と呼ばれています。
日本酒に焼酎が入っているってホント?
アル添酒の材料:米・麹・水・醸造用アルコール
というわけですが、醸造用アルコールって何なんでしょう?
簡単にいうと焼酎です。
ほとんどは、サトウキビから作られた蒸留酒。原液はアルコール度数90度を超えているため危険物として酒蔵に搬入されます。
それを水で薄めて30度程度に希釈し、醸造用のアルコールとして醸造中の日本酒タンクにぶち込むのです。
「えぇ、日本酒に焼酎入っているの!?」
そうなんです。
裏ラベルの原材料表示に「米、麹、水、醸造用アルコール」と書いてあったら、アルコールが添加してあります。
アルコール添加のメリット・デメリット
日本酒が好きな方でしたら、醸造用アルコールの存在はご存じかもしれません。
なので「アル添は好かん!」といった意見が一般に広がっているのです。
「日本酒は純米に限る!」という声は多く聞きますが、「アル添酒の方がいいよね」という意見を耳にしたことはありません。
では、なぜ日本酒にアルコールを入れるのでしょうか?
その理由を5点、紹介します。
お酒の香りや風味がよくなる
僕も酒蔵で修業するまで知らなかったのですが、適量のアルコールを加えることでお酒の香りが良くなるんです。
正しく言うと、日本酒の吟醸香はエステル化合物由来なのですが、揮発性があり、放っておくと香りが飛んでなくなります。醸造用アルコールにはいい香りを逃がさない性質があるんです。
※ 吟醸香(ぎんじょうこう、ぎんじょうか)・・・低温で日本酒を仕込むことによって生成されるフルーティな香り
実際に、全国の酒蔵がしのぎを削る全国新酒鑑評会で金賞を受賞するお酒のほとんどはアルコールを添加しています。
大吟醸と純米大吟醸を同じ土俵でテイスティングすると、アルコール添加している方が香りが豊かな傾向。
後味のキレが良くなる
ビールでも日本酒でも「辛口」と呼ばれるものは、甘さ(糖分)のみならず、アルコールによる「キレ」が重要なポイントです。
アルコールはほのかな甘味、苦味、刺激感を感じさせますが、この刺激感がキレを演出します。そのため、脂っこい料理や、しょっぱい料理と合わせるときに
口の中をさっぱりさせてくれて、また次の一口を食べたくさせます。
また、全国新酒鑑評会においても甘い酒質のお酒でありながら、甘ったるくてくどくならないように添加したアルコールが活躍します。
製造後、味が変化しにくい
日本酒は本来発酵製品ですので、品質が変化しやすいです。腐ることはないため、賞味期限や消費期限はありませんが、味は変わるのは避けられません。
保管温度、回線の有無、紫外線対策、など保管状況によってさまざまな変化をしますが、アルコールを添加することによってこの変化が置きにくくなるのです。これは、アルコールによって、酵素の働きが鈍くなるからです。
品質変化には他の要因も加わりますが、純米とアル添の酒を並べて保管してみるとその味の変化を楽しめますよ。
出荷するお酒の味を調整して均一化しやすい
これはメーカーの都合ですが、生産量が大きくなればなるほど、味のばらつきを小さくする必要があります。
日本酒は麹や酵母といった微生物の力を借りて作られるので、いくら同じ環境で作ろうとまったく同じものはできません。
ちいさな蔵であれば、タンクごとに商品名を変えたりして、その違いを楽しんでもらうこともできますが、全国に大量出荷する蔵であれば味の均一化が課題になります。
醸造用アルコールには、味の調整するための役割もあります。
お酒の生産量を増やすことができ、価格を抑えることができる
最大のメリットと言えるのはこちらです。そして、消費者に誤解を与えがちな問題の部分。
アル添するということは、アルコールのみならず、”水”を大量に投入するすることを意味します。
一世を風靡した新潟の「水のような日本酒」。淡麗辛口と言われますが、水のようにさらっと飲みやすいのは、単純に「水が多いから」。
これは良いとか悪いの話ではなくて、その味が好きな方に向けて作っているだけです。
例えば純米酒1000Lのタンクに30度の醸造用アルコールを50L添加するとする。
純米酒のアルコール度数が16度で、商品の目標は15度。
ざっくり計算すると
醸造用アルコールの他に、追加で116L追加することになるのである。
この計算でいうと、このアル添によって一升瓶100本近くが新たに生まれるのである。
まさに、水商売。
※上記の配合はあくまで一例であり、アルコールの添加量や加える水の量は酒蔵によって異なります。
同レベルの純米酒とアル添のお酒を比べると、アル添酒の方がちょっと安いのはこういう理由。
消費者にとってはありがたいお値段でいただくことができるのです。
アル添が目の敵にされる理由
ここまでの醸造用アルコールの特性をすべてご存じだったでしょうか?
それを理解した上で「やっぱり純米がいいよね」というのであれば、それは好みの問題なのでいいと思います。
しかし、醸造用アルコールには嬉しい効果がたくさんあるのに
どうして世間ではアル添酒が嫌われているのだろうか?
それには「三増酒」の存在が起因しています。
「三増酒」とは戦時中、米の不足により日本酒の原料として米を使うことが困難だったときに、日本酒をかさ増しするために作られたお酒のこと。
純米酒に醸造用アルコールと水を大量に投下し、3倍以上に薄まった日本酒。
これが「三増酒」であり、「アル添」=「薄めた安酒」というイメージが残っているからである。
ちなみに現在の法律で「三増酒」は日本酒を名乗れないし、消費者の舌も肥えているため露骨なアル添をする酒蔵は減ったように思う。
減っただけで、現存していることもまた事実だが、、
「アル添」だからといって毛嫌いしないでほしい。
僕が好きな静岡の磯自慢さんや、福井の黒龍さんは本醸造といったアル添のお酒がとんでもなく美味しい。
酒質全体のバランスが非常によく、特にお料理との相性が抜群である。これは、アル添を水増しのためではなく「より美味しい、消費者に喜ばれる日本酒」にするための手段としての、企業努力の賜物だ。
お寿司屋さんで隣のお客さんが大将に
「大将、おすすめの日本酒は?」
「磯自慢、おすすめですよ!」
「あぁ、アル添か、、違うのありますか。」
聞いておきながら、「純米じゃないのかぁ、純米で。」というのです。
まとめ
この記事で僕が言いたかったのは
「アル添だからって毛嫌いしているともったいないよ」ということ。
たしかに、アルコール感ばかりで水増し感のある日本酒が出回っていることも事実だが、そうではない素晴らしいアル添酒にであってほしい。
醸造用アルコールには、
①お酒の香りや風味がよくなる
②後味のキレが良くなる
③製造後の味の変化がしにくい
④出荷するお酒の味を調整して均一化しやすい
⑤お酒の製造量を増やすことができ、価格を抑えることができる
という効果があるので、宝探しのつもりでアル添酒も飲んでみて欲しい。
ただ、最近はやりの
「フルーティな、甘酸っぱい、味の濃い、白ワインのような」日本酒を期待した状態では、アル添酒は避けた方がよいでしょう。
ただ、アル添酒といっても各蔵で素晴らしいお酒はたくさんありますので、もし「醸造用アルコール」の表示を見たら、このお酒ではどんなはたらきをしているのかな。
という目線で楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。
さけ夫婦は、あなたのような日本酒に興味を持っている方と飲みかわせる日を夢見て、ブログを投稿しています。
こんなお酒があったよ!美味しかったよ!一緒に飲もう!とコメントいただけたらハッピーです。
(記事:夫のサニー)
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